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  • 執筆者の写真Masaru Ito

大学スポーツを盛り上げる仕掛けづくり

多くの大学生が、自分たちの大学チームを観戦する為に試合会場を訪れる。大学スポーツに関わる方であれば、一度はそんな試合を見てみたいと思ったことがあると思います。スポーツ庁の令和5年度概算要求主要事項では、国内外大学アスリートの対抗戦を含む、スポーツ振興の新たなムーブメントなどを創出する「感動する大学スポーツ総合支援事業」に、2億5千万が計上されています。一方で、様々なスポーツコンテンツがスマートフォンで手軽に見れる現代において、大学生を試合会場まで足を運んでもらうのは簡単ではありません。そこで、スポーツマーケティング領域の研究を中心に、大学生がスポーツ観戦に足を運ぶ仕掛け作りを考えてみました。

0.切っ掛け作りから観戦までの流れ

本稿では、大学生の観戦行動の一連の流れを、きっかけ作り(4)→ファンコミュニティ経験(2)→大学への愛着(3)→観戦行動と仮定して、マンパワーが限られている多くの大学で、具体的に出来ること(5)を検討しました。

※()内の番号は以下目次の番号


目次

  1. スポーツファンとチームID

  2. ファンコミュニティの研究

  3. ファンコミュニティが大学への愛着に与える影響

  4. 質の高いきっかけ作り

  5. 具体的に出来ること

  6. まとめ

1.スポーツファンとチームID

スポーツマーケティング研究では、スポーツファン(※1)とスポーツチームの関係性を強めることが、チケットの継続的な再購買へとつながり、観戦者を増やすと報告されています。スポーツチームと関係性が強いスポーツファンは、応援するチームの敗戦や成績不振の悔しさや憤りさえも共有し、試合結果やチームの状態から影響を受けることなく安定的に試合観戦を続ける。これは、チームの安定的な収入となる為、スポーツチームとファンの関係をチーム・アイデンティフィケーション(以下「チームID」と略す)に関する研究が多く行われてきました( Heere et al., 2011 など)。これを応用すると、大学への愛着が強まると、大学スポーツ観戦行動につながる可能性があると考えられる。

※1スポーツファンとは、あるスポーツ関連の対象(種目、選手、地域など)に愛着をもち、熱心に支援する者で、これらの対象との関わりを継続的に保つことのできる個人と定義されている( Heere et al., 2011 など)。


2.ファンコミュニティの研究

一方で、観戦行動の要因は、スポーツファンとチームIDだけの関係だけでは説明出来ないことも指摘されており、一緒に観戦をした他のファンとの心理的つながり(ファンコミュニティ)が観戦動機に与える影響についても研究が進んでいます。仲澤(2015)は、同じスポーツファン同士が、観戦経験を共有する集団的結合(ファンコミュニティ化)と観戦行動の関係に着目し、ファンコミュニティのつながりが強まることで、チームIDに影響を与えることを示しています。特にチームとの結びつきの弱い人へは、ファンコミュニティに関連した経験が有効であると述べています。

一緒に観戦する人が観戦動機に与える影響についは、「アメリカ大学スポーツ観戦数(大学生)が減少傾向」で取り挙げたように、観戦経験がない学生は、「観戦費用(チケット代、食事代等)」、「興味の欠如」や「一緒に行く人がいない」などが観戦をしない理由としてあげています。つまり、興味を持つ「きっかけ作り」と「コミュニティとの係わり」により、愛着を持っていない学生の観戦動機が高めるられることが考えられます。


3.ファンコミュニティが大学への愛着に与える影響

さて、大学でのスポーツコミュニティに話を戻すと、共通の興味や愛着を持って活動するコミュニティと言えば、運動部やサークルが挙げられます。アメリカの大学におけるスポーツコミュニティ(Intramural sports)を扱った研究では、大学スポーツコミュニティへの愛着が高まることで、人間関係や心身の健康の向上につながると述べられています(Forrester、2015など)。 また、Leeann(2020)によれば、コミュニティーの愛着が強まり、学生同士のつながりが強くなることで、コミュニティに参加している学生の大学への愛着は、参加していない学生と比べて、高くなると述べています。よって、一般学生の観戦動機を高める為には、一部の強化運動部への支援だけではなく、一般運動部やサークルの活動の充実も重要な役割を持っていることが言えと思います。


4.質の高いきっかけ作り

「する・みる・ささえる」という視点で見た時に、学生と大学スポーツが関わるきっかけは、ゼミでの活動や、ボランティア活動など少なくないと思います。活動参加が、活動やその地域への愛着を高める作用をすることは研究でも述べられておりますが、青柳(2019)は地域活動と地域への愛着に関する研究の中で、愛着をより高める要素は、活動によって得たものがあると感じられているかどうか、と述べています。これは、参加回数が多い事よりも、活動によって得たもの、例えば、「私生活が充実した」「知り合いが増えた」「自分自身が成長できた」などが、愛着の醸成に強い効果があると述べています。


5.具体的に出来ること

上記研究結果を踏まえて、現実的にマンパワーが限られている多くの大学で出来ることを大きく分けて、「既存のコミュニティー活動の充実」と「切っ掛けの質を高める」の二つの視点で考えました。

  • 「既存のコミュニティー活動が充実する取り組み」

「活動の充実」の話になると、最初に思い浮かぶのが「お金」だと思うのですが、それは現実的ではないので、例えば「安全安心の環境整備」に関する情報(緊急時マニュアル、学内のAEDの場所、緊急搬送経路)や研修の実施、また、大学スポーツ協会が無料え行っている様々な研修への参加などは、追加のお金や多くのマンパワーを掛けずに取り組めることと考えます。

  • 「切っ掛けの質を高める」

学生の活動の多くは、学生が主体的に動くものが多いと思いますが、活動の先にある目的を見据えて、大学が適度にフォローをしながら活動の質を高める(学生がやりがいを持つ)ことも、大学への愛着を持つためには有効であると考えます。また、このような取り組みは、学内との関係構築ができていない1年生には特に有効と考えます。


6.まとめ

「大学スポーツの振興」には、大学生が大学を盛り上げ、スポーツを応援する仕掛けが必要である考えます。それには、運動部の競技力向上だけではなく、一般運動部やサークルなど、スポーツに愛着のある学生の活動が充実することが、その始まりになるのではないでしょうか。

また、スポーツに愛着のない学生に向けては、日々の活動にやりがいを持たせて、活動が充実することで、仲間意識や大学への愛着が芽生え、将来的な観戦行動が高まることが考えられます。

最後に、この壮大な仕掛けづくりは、自然に出来るものではなく、大学やスポーツ統括組織(例:スポーツ局)が、大きな絵を描いて、一つ一つのパズルを地道に組み合わせる作業を日々行っていく必要があります。 結局のところ、大学スポーツの振興は、その他の大学の活動と同じように、学生の日々の充実が始まりなので、その実現のために大学の組織的なサポートは不可欠と言えます。


参考文献

  • 青柳涼子. "地域活動への参加が地域愛着意識に与える影響: 活動の効用に着目して." 淑徳大学大学院総合福祉研究科研究紀要 26 (2019): 57-70.

  • 仲澤眞, and 吉田政幸. "ファンコミュニティの絆 プロスポーツにおけるファンコミュニティ・アイデンティフィケーションの先行要因および結果要因の検証." スポーツマネジメント研究 7.1 (2015): 23-38.

  • Forrester, S. (2015). Benefit of collegiate recreationsports participation: Results from the 2013 NASPAassessment and knowledge consortium study.Recreational Sports Journal,39, 2–15.

  • Funk, D.C. and James, J.D. (2001) The Psychological Continuum Model: A conceptual framework for understanding an individual’s psychological connection to sport. Sport Management Review, 4(2): 119-150.

  • Heere, B., James, J.D., Yoshida, M., and Scremin, G. (2011) The effect of associated group identities on team identity. Journal of Sport Management, 25(6): 606-621.

  • Lower-Hoppe, Leeann M., et al. "The relationships between sport club activities and university and member attachment." Recreational Sports Journal 44.1 (2020): 5-14.

  • Wann, D.L., Melnick, M.J., Russell, G.W., and Pease, D.G. (2001) Sport fans: The psychology and social impact of spectators. Routledge: New York, USA.

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