大学が資金を投入する強化運動部(以下、強化部という。)の役割を、広告塔から大学の強みを可視化するものに広げ、大学における強化部の意味的価値を継続して作りだそう。若年層の情報収集方法が変化し、大学広報は大学主体から学生自らが発信する形にシフトしている。「大学の強み」x「スポーツ」で多面的な大学の魅力を高め、学生から大学とスポーツの価値を発信してもらおう。
〇スポーツを通じた大学広告の課題
全国大学体育連合が行った調査では、大学スポーツに期待することとして、85%の大学が「社会における大学のイメージやブランド力の向上」を挙げている(全国大学体育連合、2015)。大学スポーツ最大のコンテンツといわれる箱根駅伝は、10年以上前にすでに広告効果が約60億円とも言われ(生島、2011)、川橋ら(2018)は、ラグビーや六大学野球など、近年、大学スポーツも世間から多くの注目を浴びるようになったと述べている。
一方で、大学が広告を打つ最終的な目的を学生の獲得と考えると、大学スポーツへの投資がどれくらいの学生獲得につながっているかの検証はほぼされていない。大学で競技を続ける学生以外は、「●×運動部が強い」が進学動機とはならず、大学が期待しているのは、全国大会優勝などでのメディア露出による「大学の認知向上」を切っ掛けとして、最終的に一般学生が大学に進学することだろう。
しかし、マスメディア(新聞・出版・放送)で●×大学●×部優勝が取り上げられたとして、それがどの程度Z世代に伝わっているのだろうか。総務省(2022)の調査では、10代の一日平均のテレビ(リアルタイム)視聴時間は一時間を下回り、年代別で最も短く、前回調査(2021年)よりも短くなった。ソーシャルメディアや動画投稿サイト利用時間は一日平均で3.5時間であるが、大学スポーツ協会(以下、UNIVASという。)の調査によれば18~19歳で大学スポーツへ興味がない割合は6割を超え、20代にいたっては7割近くになる(UNIVAS、2023)。露出を期待しても、そもそも興味がなければ、SNS等で検索されず、大学の認知につながることはない。
「箱根駅伝は別だ」と仰る方もいるかもしれないが、大手人材会社が高校生に行った大学知名度ランキングで、2025年箱根駅伝シード校(10大学)の内、7校が上位20位にランクインされている(マイナビ, 2024, リクルート, 2018)。これは、既に多くの大学が「認知」されており、箱根駅伝出場がさらなる入学者増につながるかどうかは疑問がのこる。
そこで提案したいのが、「大学の強み」x「スポーツ」で多面的な大学の魅力を高め、学生から大学とスポーツの価値を発信してもらう形である。
〇「スポーツ」との掛け算で、学生自ら大学の魅力を伝える
「大学の強み」x「スポーツ」の一例として、「地域貢献活動」を大学キャンパスで開催する形がある。この活動を行っている大学は多いと思うが、「強化部の価値創造」という視点で、ポイントを、1.活動の見える化、2.大学全体の協働、3.運動部のガバナンスと理解、で整理した。
活動の見える化
高校生を対象とした調査では、高校生が大学選びで重視するのは、①学びの内容、②ネームバリュー(就職に有利である)、③雰囲気が良い、と続く(リクルート, 2022、スタディプラス, 2022)。①②を運動部が直接貢献することは難しいが、このイベントで③には貢献できる。強化部の意味的価値を学生・教職員に感じてもらうためにも、地域貢献活動はキャンパス内で開催しよう。学園祭や学内の他のイベントと組み合わせるのも良いと思う。
大学全体の協働
「大学あるある」ではあるが、「これは●×ゼミの活動」「あれは●×課のイベント」「それは●×運動部のボランティア」など直接関係ないと他人事になることが大学ではよくある。本活動のゴール「多面的な大学の魅力を高める」について、丁寧に説明をおこない、企画や運営に協力してもらえる学生・教職員を増やしていこう。特に、学内の広報部門を巻き込んで、学内周知に使えるツールをフル活用することは重要である。
運動部のガバナンスと理解
学外に行う事業として、第一に運動部としてしっかり活動(ガバナンスが機能)していることが重要である。これこそが、常勤の指導者やマネジメント体制が整っている強化運動部の強みである。同時に、様々な指導者の形がある中で、比較的常勤の指導者が多いことからも、指導者に活動の目的や強化部の意味的価値への理解について、時間をかけて丁寧な説明を行う事ができる。
〇主役は「大学スポーツ」ではなく「学生」
大学広報の形が変わる中で、広告塔の一旦を担ってきた強化部の新たな価値創造を提案した。誤解のないようにしたいのだが、本投稿は、「競技力向上は不要」という話ではなく、「優秀な競技成績に加えて、さらに大学に貢献する活動」の提案である。一方で、この提案を実行するのは簡単ではないことも実感している。強化部の歴史が長ければ長いほど、今までの形が将来も永遠に続いてほしいと願う人は多いだろう。新たな価値創造には、学内外の理解に時間をかけて行う必要があり、「大学における強化部の位置づけ」という本質的な整理が必要になるかもしれない。
本質的な部分で言えば、大学広報が大学主体から学生主体にシフトする中で、大学は在校生の満足度を上げる必要がより一層高まったといえるのではないか。これは、キャンパス内におしゃれなカフェがあるという話ではなく、「教育の質が高いのか。望んでいた学びを得られるのか。」という高等教育の本質的な価値をシビアに求められることを意味していると思う。その中でも、強化部が大学における意味的価値をどれだけ発揮して、大学に継続して求められる活動となれるか、強化部活動は大きな転換点に来ているのではないだろうか。
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