なぜ大学生は大学スポーツ観戦に興味がないのか:”魅力”よりも”抵抗”を解消する方法
- Masaru Ito
- 21 時間前
- 読了時間: 6分
スポーツの”魅力”を伝える手法から、スポーツ参加をためらう”抵抗”を取り除く手法に変えよう。スポーツの魅力を知ってもらうために、様々な取り組みが行われているが、課題は”魅力が伝わっていない”ではなく、行動に一歩踏み出すまでに様々な”抵抗”があるからではないか。スポーツを「馴染みあるもの」として捉えられるように、抵抗や不安を軽減して学生が主体的にスポーツへ参加できるようにしよう。

本ブログではこれまで、大学生のキャンパスライフをより豊かにする取り組みの一つとして、「大学におけるスポーツ」の再定義を提案してきました。これには、大学生が大学スポーツに「する・見る・支える」といった様々な形で関わることが、第一歩となりますが、このハードルがなかなか高いと感じています。
一般社団法人大学スポーツ協会(以下、UNIVAS)の大学スポーツ認知度調査(2023年)によると、18〜19歳の大学生のうち、大学スポーツに興味がないと答えた割合は6割を超え、20代では7割近くに達していると報告されています。直近1年間の大学スポーツ観戦を「ない」と答えた割合は、(当然)高く、18〜19歳では7割、20代では8割近くに達しています。
以前取り上げた「大学におけるスポーツ活動の『強化』とは」においても触れましたが、現在の職場では、運動部の価値を、競技力強化による広告効果だけにとどめず、「知っている選手との一体感」や「社会的交流の場」としての価値に注目し、年間を通じてイベントを行っています。とはいえ、現時点では大きな関心や集客には繋がっていないのが課題です。
そこで、視点を根本的に転換してみたいと思います。ロレン・ノードグレン他(2023年)によると、顧客に対して、企業がいくら購入へのインセンティブ(=燃料)を提供しても購入に至らないことがある。その原因は商品の魅力不足ではなく、購入を阻む心理的要因(=抵抗)にあるとされ、この「抵抗」を取り除かない限り、購入には至らず、時に逆効果になることもあると述べています。
この考えを踏まえ、大学生が大学スポーツに興味がない理由を「スポーツの魅力が伝わっていないから」ではなく、「行動に移すまでに多くの心理的な『抵抗』があるからではないか」という仮説をたて、これらの「抵抗」を取り除く方法について検討しました。
ロレン・ノードグレン他は以下の4つの「抵抗」があると述べています。
惰性:いままでのやりかたに固執しようとする欲求
労力:変化を起こすために必要なエネルギーを使うことへの抵抗
感情:変化そのものが引き起こす否定的感情
心理的反発:変化させられまいとする衝動
1.惰性へのアプローチ
体験したことが無いものに参加するのは大きな変化であり、抵抗も大きい。「馴染み」の無いものを「馴染み」のある物に変えていこう。
小さな変化から起こしていく。→運動部学生が大学キャンパスで一般学生と接点を持てる場や切っ掛けをつくる。また、スポーツイベントに関するポスターを掲示することで、直接、行動に結びつかなくても、無意識にスポーツイベントに「馴染み」が出てくる。
スポーツイベント開催日までのロードマップを、十分な時間的余裕をもって示す→必要な情報を提供し、意思決定を求めるまでの十分な時間を与える。
「これこそキャンパスライフ!」という提案をする→少々乱暴に聞こえるかもしれないが、「キャンパスライフとはどういうものか」を自分で考える手間を省く(労力の部分の解消という視点でのアプローチ)。
2.労力へのアプローチ
スポーツ体験がない学生は、メリットのイメージが湧かないので、労力のイメージが勝ってしまう。スポーツ体験へ掛かる労力と参加方法をイメージさせよう。
必要な労力を可視化する→費用、所要時間、利用できるサービスや申し込み時期などを示す。
追加の労力を減らす→スポーツ体験がない人に、いきなり国立競技場でのイベント参加はいろんな意味で「遠すぎる」。まずは、学生の負担ゼロでスポーツ参加を可能にする。例えば学内、平日の午後、入場料無料で、短時間で終わるのスポーツ体験を用意する。
調べる・考える労力を使わせない→チケット窓口の営業時間、いつからチケットを購入できるのかなど、あらかじめ年間スケジュールを示して、学生の記憶に残す。
3.感情へのアプローチ
「忙しい毎日に、新たなイベントを加えることで、日頃出来ている事が出来なくなる」、そんな不安を解消しよう。
自ら理解する→情報を取りやすくして、自ら情報を集めることで、イベントを加えることが、日々の大学生活のルーティーンを変える必要がないことを自ら理解する。
複数・グループで参加する→ジョブ理論によると社会的に価値のあるもの(生活の中で話題になる物)は、自ら取りに行く(参加する)傾向があると述べられている。友達と話題になれば、参加動機につながることが考えられる。
初体験を乗り切れるように”応援”する→スポーツが未経験でルールなどを知らないことは、とても強い抵抗の感情を生む。必要なのは、”ルール”を教えるのではなく、そのイベントを乗り切れる優しい励ましの言葉。それが、参加者の“よい”体験につながる。
4.心理的反発へのアプローチ
決定権を学生に渡すことで、変化で起きる反発を防ぐ。
情報を限定しない→発信する情報は、強化指定部など、こちらが見てほしい情報だけに限定せず、一般運動部の活動も広く発信する。
コ・デザイン:様々な関係者(学生新聞部、強化指定部、一般部、学友会、事務方等)を巻き込んで、企画のデザインを手伝ってもらう。新しい取り組みの中で、学生自身がどのように関わるのか確認ができる。
小さな頼みごとから”イエス”と答えてもらう→「キャンパスが賑やかになったらいいよね」→「YES」→「お昼休みに中庭でイベントやります。来ませんか」→「YES」
今回は、スポーツの魅力は伝わっているものの、行動に移す際の「抵抗」をどう取り除くかを検討しました。笹川スポーツ財団(2021)によれば、スポーツを実施する子どもと実施しない子どもの二極化傾向があると述べている。また、スポーツ観戦状況においても「実際のスポーツを観戦しなかった」と回答した割合が子ども多く(日野市、2015)、そもそも、スポーツに触れる機会が限られていることが伺える。
大学生が体験したことが無いものに参加するのは大きな変化であり、抵抗も大きい。そこで、新しいことへのチャレンジではなく、日常の通学路でいつも無意識に素通りする「イベントポスター」のように、何かのきっかけで「そういえば見たことあるな」となるような仕掛けをしていく事が、スポーツ参加への第一歩となるのではないでしょうか。
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