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指導者の心理とハラスメント

執筆者の写真: Masaru ItoMasaru Ito

指導者の心理的不安を取り除き、ハラスメントを予防しよう。ハラスメント予防には、指導者と選手のコミュニケーションが重要であることが言われているが、指導者は選手とどのようにコミュニケーションを取ればよいか悩んでいないだろうか。具体的なコミュニケーション方法を学び、指導者の心理的不安を取り除くことで、選手の活動が充実する環境を作ろう。


今回のポイント

ポイント1:指導者は選手とのコミュニケーション「方法」に不安があるのではないか

ポイント2:一般的な研修ではパワハラの種類や事例の話で「方法」をカバーしていない

ポイント3:3つのコミュニケーション「方法」で選手との対話を始めてみよう


 2012年12月、大阪の公立高校で起きた事件は、スポーツ指導者(以下、指導者)のパワーハラスメント(以下、パワハラ)が注目されるきっかけとなりました。それから10年以上が経過しましたが、私たちは指導者のハラスメントに関する不祥事のニュースを頻繁に目にします。松瀬(2021)によれば、大学運動部における倫理・コンプライアンス違反で最も多いのは指導者によるハラスメント(41.7%)であると述べています。


 指導者のハラスメントの原因として「組織ガバナンス」や「指導者個人の資質の問題」が取り上げられることが多いですが、その二つを押さえつつ、ハラスメントの根本的な課題の一つは、「指導者がどのように選手とコミュニケーションを取ればよいか分からないから」という視点で、その原因と改善方法について考えたいと思います。


「組織ガバナンス」

 松瀬(2021)は大学運動部における「組織ガバナンス」の課題として、「倫理・コンプライアンスに関する規程の有無」と「指導者の選任プロセス」を挙げています。「倫理・コンプライアンスに関する規程」については、法人または大学組織内の規程に定められているのは51.0%、運動部での倫理・コンプライアンス違反に対応する相談窓口が設置されているのも55.1%と、いずれも半数を少し超える程度であると述べています。「指導者の選任プロセス」については、大学の会議体での審議を経ていなかったり、運動部のOB/OGや前任者の意向が大きな影響を与えたりしている選任プロセスが多く、大学運動部における責任の所在を不明瞭にさせると述べています。


「指導者個人の資質の問題」

 日本スポーツ協会(2020)の調査では、コーチの指導レベルが上がるにつれハラスメントに関する講習会受講率や受講頻度が高くなり、受講頻度が多いほど、指導者自身のハラスメント抑止への自信が強まる一方で、競技水準が高い指導者ほどハラスメントを見聞きする割合が高くなる傾向があると述べています。村本(2018)は、男性であること、指導実績が高いこと、指導歴が長い指導者ほど、体罰実施経験率が高い結果が見られたと述べています。つまり、競技水準が高いところは、指導経験も長く、講習会受講率が高い指導者が多いにも関わらず、ハラスメントも高い傾向にある。これは、ハラスメント講習受講回数や本人の自信が強くなっても、ハラスメントの抑止にはつながっていないことが示唆されます。


では、本質的な原因は何なのか?そこで、「指導者がどのように選手とコミュニケーションを取ればよいか分からないから」という視点で考えてみましょう。


「コミュニケーションのすれ違い」

 村本(2018)は、指導者の熱意や勝利への執着が選手への暴言に転化する可能性があると述べています。一方、Z世代の高校生は緩やかな部活動を好み、厳しい指導を避ける傾向があり(SHIBUYA109 lab. 2023)、さらに、若年層ほどハラスメントを容認しがちで、指導者が自身の言動に気づきにくい環境が生まれていることが分っています(熊安貴美江(2018))。エン・ジャパン株式会社(2024)の調査では、上司と部下のコミュニケーションにおいて、70%が何らかの課題を感じていることが示されており、これらのコミュニケーションのすれ違いがハラスメントを生む可能性があります。


では指導者はどうすればよいのでしょうか。ハーバード・ビジネス・レビュー「Z世代のエンゲージメントを高める7つの戦略(以下、HBR)」を参考に指導者向けのヒントを探っていきたいと思います。HBRによれば、Z世代はデジタルネイティブ世代であり、パンデミックによる経済不安を経験し、不安や鬱を抱える割合が他世代よりも高い層であると述べています。彼らにとって、自分が情報を処理してコントロールできていると感じることが重要と述べています。このことから、「双方向の対話」「オープンアクセス」「フィードバック」をキーワードで指導者と選手のコミュニケーションの改善を考えていきます。


「双方向の対話」

 コグニティ株式会社の調査によると、Z世代は他世代と比較して発言量が少なく、話すスピードも遅い傾向があることが分かっています。スポーツの現場で指導者に意見することは若年層ほど難しい(熊安貴美江(2018))ことから、デジタルツールの活用が双方向の対話を活性化するかもしれません。

 パンデミックを契機にデジタルのコミュニケーションツールが広まり、指導者の多くはコミュニケーションが減ったと認識している一方で、選手の多くは変わっていないと認識しているという結果もあります(株式会社エムティーアイ(2021))。「それでもSNSは苦手で…」という方は、この機会に一度SNSを通じての会話を学んでみると良いかもしれません。


「透明性のあるコミュニケーション」

 デジタルツールの活用に併せて、共有する情報を「必要な人にだけ知らせる」という原則から「オープンアクセス」に転換しましょう。運動部を「守る」ために一部の部員にしか共有していない情報も含みます。透明性のあるコミュニケーションにより、部員間の対等な関係を築き、個々の役割や評価基準の平等性を示し、指導者の意思決定のプロセスも明確にすることができます。


「フィードバック」

 HBRによれば、Z世代は目的志向であり、自分の役割が組織にどのように貢献しているかを理解したいと述べられています。十分な情報を与えた上で、部における役割を説明し、考える余裕と自主性を与え、自ら決めて行動することを促しましょう。取り組みのプロセスやアウトプットに対するフィードバックを行うことで、選手の自己肯定感が高まり、指導者と選手のコミュニケーションが円滑になります。


 現在、パワハラに関する研修は多く行われています。しかし、その内容はパワハラの種類や事例の話で、「コミュニケーション不足が原因になるので十分なコミュニケーションを取りましょう」で終わってしまう内容を多く目にします。もし、コミュニケーションの「方法」に課題があれば、本投稿が何かのお役に立てば幸いです。


参考文献

  • 松瀬学, 佐野昌行, & 金田竜成. (2021). 大学運動部を取り巻くガバナンス体制の研究 指導者に対する大学の管理の実態に着目して. スポーツマネジメント研究, 13(1), 15-27.

  • ⽇本スポーツ協会 公認スポーツ指導者を対象としたオンライン調査報告書(2020)

  • 村本宗太郎, & ムラモトソウタロウ. (2018). 学校運動部活動における体罰の発生要因に関する研究.

  • 亀井誠生, & 岡本直輝. (2021). 高等学校運動部活動中の指導場面における暴言について. 運動とスポーツの科学, 27(1), 23-35.

  • SHIBUYA109 lab.(2023)Z世代の部活動に関する意識調査

  • 熊安貴美江(2018)スポーツ環境におけるセクシュアル・ハラスメントの実態と課題

  • 株式会社エムティーアイ(2021) コンディションノート『Atleta』「新型コロナウイルス感染症と部活動の関係に関するアンケート調査」

  • エン・ジャパン株式会社(2024) 「上司・部下間のコミュニケーション」調査 

  • Harvard Business Review, 2023 Z世代のエンゲージメントを高める7つの戦略

  • コグニティ株式会社(2024) Z世代のコミュニケーション特性 2024

 
 
 

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