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執筆者の写真Masaru Ito

運動部学生の「たのしい」学生生活を取り戻そう

 運動部学生の「たのしい」学生生活を取り戻そう。大学関係者や指導者が、運動部学生を「アスリート」として見ている・接しているために、運動部学生自身が、「学生」の生活を満喫できていない。それは結果的に、一般学生と運動部学生の距離を広げ、一般学生に認知(=応援)されない運動部につながっている。

 大学関係者、指導者、そして運動部学生自身も、学生の本分は学業を含めた学生生活を満喫することであり、部活動はその中の一部であることを再認識し変えていこう。運動部学生が教室内外で「学生」として活動し、一般学生との交流の機会を増やし、「たのしい」学生生活となれば、結果、在校生から応援してもらえる学生アスリートになれると思う。

 



 日本において「大学」とは、「学術の中心として、広く知識を授けるとともに、深く専門の学芸を教授研究し、知的、道徳的及び応用的能力を展開させることを目的とする」(学校教育法第52条)場所であり、部活動は正課外における学生の活動と位置付けられている。

 一方で、日本の大学の半数以上が競技実績を入試の評価対象とし、スポーツ推薦入試や競技実施考慮型入試(※)を実施しており、スポーツ推薦入試を実施している大学の57.2%もの大学が出願要件の中で「競技継続」を求めている(小野, 2023)。これが、正課外活動にも関わらず、運動部学生がつねに競技成績へのプレッシャーやストレスを感じていることにつながっているとも指摘されている(朝日新聞, 2023)。

 そこで、運動部学生が、一般学生とおなじように「たのしい」学生生活をおくれるように以下の提案をしたい。


1.大学は運動部指導者に丸投げをしない

 文部科学省は、「大学教育における運動部活動は、大学教育活動の一環であり、大学には、必要な事項について包括的な管理・教育権限への責任がある」と述べている(大学スポーツ協会, 2018)。一方で、正課外活動であるが故に、大学の運動部活動への関与は曖昧であり、大学と指導者の間で部活動以外の役割分担が明確(文章化)にされていない場合が多い。大学と指導者の役割分担が不明確になると、運動部学生の本分である「学生生活」への支援を誰がどのように行うのかが曖昧になり、「学生」が本来受けられる支援や情報が運動部学生に十分届かないことが起こる。

 特に、大学が人・物・金を投入して強化を図るいわゆる「強化運動部」指導者の場合、大学側が指導者に「学生生活」も含めたすべての運動部活動の管理を任せている場合がある。松瀬ら(2021年)は、外部指導者が多い中で、ガバナンスが機能しづらい状況にあり、大学が組織的に関与することがガバナンスを徹底する上で一定の役割を果たしていると述べている。大学に所属する運動部である以上、大学がイニシアティブをとって、指導者の役割と責任を明確することが必要と考える。


2.運動部学生も自ら部以外の活動に関わろう。

 大学によっては、スポーツ推薦専用の学部や学科コースがあり、運動部学生と一般学生との接点が限られる。そこで例えば、次のような形で接点を増やすことも出来るのではないか。

  • 選択科目などで、積極的に一般学生と同じ授業を受講する。

  • ゼミに参加する。

  • その他(チューター制度利用や学園祭への参加など)

 上記のような係わりが増えれば、運動部学生が部以外のコミュニティの中で、第三者的視点で日々の部活動を見ることができる。同時に、一般学生が運動部学生を一人の「学生」として認識する機会が増え、つながりが生まれる切っ掛けとなる。


3.指導者に学生生活を見せよう

 現在、大学指導者は、教員、職員、外部指導者との契約(雇用契約・業務委託契約を含む)やボランティアなどいくつかの形がある。大学スポーツ協会(2020)は、91.8%の大学において、 学外指導者が現場で指導をしている運動部があり、学外指導者が指導している運動部が半数以上ある大学は32.2%と述べている。村上(2024)や木之下(2012)が指摘するように、指導者と大学との接点が限定的となり、運動部学生の学生生活を目にする機会が減れば、人間形成の面といった教育的内容が学校から切り離されていく事が懸念される。学外指導者に限らず、指導者が、どこまで運動部学生の学生生活の管理責任を担うべきかについては、議論が必要な部分ではある。しかし、上記2.で述べたような活動を認識もしくは目にすることは、指導者が学生の本分を理解するうえで重要である。


 「大学スポーツの課題」と言うと、例えば、「文武両道」などよく聞かれるが、「文武両道」が出来ないことを、運動部学生個人の「努力不足」とするのはどうであろうか。実際、学生への学業支援のツールは山ほどあるが、長い間この課題が改善されないのは、本質的な問題が解決されていないためではないだろうか。

 運動部学生は、第一に「学生」であり、その活動を充実させるには学生自身の努力はもちろんのこと、指導者と大学関係者の連携と協力が不可欠である。その為にも、「学生」の本分とは何なのか(本来は言わずと知れたことであるはずだが。。)、教育活動の一つである運動部活動を通じて何を達成するのか。大学資源を投入する強化運動部の活動を大学でどう位置付け、運動部関係者とどう共通理解するのか。運動部学生の本来の「たのしい」学生生活を取り戻すため、運動部学生、大学と指導者でもう一度話し合う時期に来てはいないだろうか。


小野(2023)は、スポーツ推薦入試ではないものの,総合型選抜・学校推薦型選抜を実施する中で,多様な評価対象のうちの1つに競技実績を位置づけている入試を「競技実績考慮型入試」と定義している。


参考文献

木之下慧剛(2012)「学校教育における部活動の役割-高等学校教諭へのインタビュー調

査を通して-」,九州大学人間環境学府教育システム専攻.

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