NCAAによると、3つのDivisionにまたがる1,100以上の加盟大学で、2019年に2兆3,436億円(189億ドル)の収入があり、約2兆2,444億円(188億ドル)が大学スポーツに費やされました。
収入の内訳を見ると、全体の44%を占めているのは、大学や政府からの支援金(36%)学生の授業料(8%)でした。つまり全体で見た場合、アメリカ大学スポーツ運営は大学、政府や学生の授業料からの収入なしでは成り立たない事業となっています。
また、全米の国勢調査(United States Census Bureau)によると、アメリカにおいても18歳人口は減少傾向にあります。よって、大学は州内学生だけでは
なく、全米からのリクルーティングにさらに力をいれるようになっています。
その方法の一つが、プロスポーツと並んで人気が高い大学スポーツを使っての全米露出強化です。多くの大学で、競争力強化のために、より露出の高いコンファレンス(大学チームが一緒になってホームアンドアウェイ試合を行うグループ)への異動や、競争力を高めるために大学スポーツ施設への投資が積極的に行われています。
何が問題なのか:露出目的のコンファレンス異動や、視聴率優先の試合スケジュールによって、学生選手の大学生活は競技優先となります。それは、大学での学びや、一般学生とのつながりをさらに遠ざけるものとなるのではないでしょうか。
先日、Game Day Communications主催で「The future of sports~college spots panel」が開催され、Xavier University, Northern Kentucky University, University of Cincinnati、 Miami UniversityのAthletic Director4名が登壇しました。マイアミ大学ADのJohn Cunningham氏は、「大学スポーツは大学ブランドを推進するもの」と述べ、現在所属しているAmerican Athletic Conferenceから、全米5大パワーコンファレンスの一つと呼ばれるBig12への異動(23年夏から)と、そこでの競争力強化のために、屋内施設を備えたサッカー複合施設、新しいテニスコート、フィールドホッケーの改修などのために、約185億円(1億5000万ドル)を調達したと述べています。
大学スポーツ施設への設備投資は他大学でも行われており、Gray Television, Inc.によれば、テキサスA&M大学は、学生選手へのスポーツ心理やスポーツ栄養、コンピューターラボ等の施設の為に150億円以上を調達したと述べています。
話をマイアミ大学に戻すと、地域のコンファレンスから全国区のコンファレンスに異動するれば、試合移動時間増加等による学生選手自身への負担が増えるだけではなく、キャンパスライフに費やす時間が減少することで、学業やキャリア、また一般学生とのコミュニケーション機会が減ることが懸念されます。同時に、アウェイ試合が距離的に遠のくことで、試合に足を運ぶ学生やサポーターがへり、テレビ応援が主になることで、全米的にみればファンが増えても、キャンパス内でのファンは逆に減るかもしれません(あくまで勝手な推測です)。
学生選手の本分は学生である:NCAAによれば、NCAA全体のアメリカンフットボール学生選手(73,712名)の内、プロに行けた選手は254名(1.6%)にすぎません。残りの98.4%は一般学生同様に、卒業後の進路を検討し、社会に出ていかなければいけませんが、大学での学びやつながりを十分に持てていない学生選手はすでに多くのデメリットを追っているのではないでしょうか。
大学経営方針として、特定の施設にお金をかけることは理解できます。ただ、大学が学生選手教育の本質を見失い、良い人材を輩出できなければ、一時的に知名度があがっても社会から支持されることはないでしょう。大学スポーツとは、大学での専門的な学びと、人とのつながりを作るの中で、人間性をより豊かに持ち、社会に飛び立つプロセスの一部分にすぎないことを忘れてはいけません。
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