大学でキャンパスレクリエーションを始めよう
- Masaru Ito
- 8月11日
- 読了時間: 6分
大学生が気軽にできるキャンパスレクリエーションを始めよう。運動部やサークルに所属しない学生がキャンパスでスポーツをできる環境は限られている。キャンパスレクリエーションの段階的な実現に向けて、教育・マネジメント・技術の3つの視点から、学びの場の創出、持続可能な運営、安全で質の高いスポーツ体験を実現しよう。

スポーツ庁は2025年8月8日、大学スポーツの発展に向けた方策を検討する「大学スポーツ構想会議」がまとめた提言を公表しました。その中で、「キャンパスレクリエーション環境の充実」についての取組の必要性を述べています。
キャンパスレクリエーションの重要性については、「大学キャンパスにちょこっとザップを開設しよう」でも取り上げましたが、改めて振り返ると、現在の日本の大学では、運動部やサークルに所属しない学生がスポーツをできる環境は限られているので、誰もが気軽にスポーツを楽しめる場所があることは、学生のウェルビーイングやキャンパスライフの充実にとって重要です。
今回は、この提言を受けて、実際に大学がキャンパスレクリエーションを実施するためには、具体的に何が必要かを教育・マネジメント・技術の3つの視点から考えてみたいと思います。
1.キャンパスレクリエーションとは
スポーツ庁は、「レクリエーショナルスポーツ」とは、「身体運動の楽しみを求めて、自由時間に自発的に行われる社会的に価値のある活動を意味する。いわゆる、遊びや社交としてのレクリエーション活動のみならず、サークル活動やフィットネスなど、広く運動部活動以外を指す」と述べています(スポーツ庁、2025)。
広くキャンパスレクリエーションが取り入れられているアメリカの大学(EWU, 2025)を見ると、キャンパスレクリエーションの形は大きく分けて以下の4つがあります。
チーム所属型(チームに参加して行う)
個人参加型(指定の時間に特定のスポーツをやりたい人が集まって行う)
施設開放型(体育館、ジムやウェイトルームを利用するなど)
レッスン・イベント型(指導者がついて定期的に行う)
2.教育・マネジメント・技術の3つの視点から考える
教育的視点:スポーツを通じた学びの場づくり
キャンパスレクリエーションは、単なる運動の場ではなく、大学教育の理念と結びついた学びの場であることが不可欠です。「ちょうどよい大学スポーツの在り方とは」で取り上げましたが、スポーツの「する・みる・ささえる」を通じて、学生の学びと成長を促すためには、「やりたい人が、やりたい形で参加できる」環境を整備することが重要です。例えば、「する・みる」の例として、東京大学では運動会員になると、学内者を対象とした応援ツアーやスポーツ講習会、大会などの各種スポーツイベントに参加できます(東京大学、2025)。また、「ささえる」の例としては、アメリカの大学では、学生はアルバイトとしてキャンパスレクリエーションの運営に関わることが出来ます(EWU, 2025)。
マネジメント視点:持続可能な運営のために
次に、キャンパスレクリエーションを継続的に運営するには、教育的・社会的価値を最大化するマネジメントが欠かせません。図1では、キャンパスレクリエーションのマネジメントに必要な5つの視点を示しています。
包摂性:性別・文化・障がい・経済状況など多様な背景を持つ学生が参加できるよう、バリアフリー設計や道具の貸し出し、リーズナブルな年会費などの工夫が求められます。
協働性:学生と教職員が共に企画・運営に関わることで、主体的な学びやコミュニティ形成が促進されます。体育専門教員との連携も重要です。
持続可能性:財政的・人的・環境的資源を確保するために、外部助成金の活用や学内との連携、既存施設の有効活用が必要です。
透明性:運営内容や収支報告をHPなどで公開することで、関係者の信頼を得ることができます。
改善性:スタッフ研修や情報収集を通じて、活動の質を継続的に向上させる仕組みが求められます。
図1:キャンパスレクリエーションのマネジメント
項目 | 内容 | 具体例 |
包摂性 | 多様な背景(性別、文化、障がい、経済状況など)を持つ人が参加できる。 | バリアフリーアクセス 道具貸し出し リーズナブルな年会費 |
協働性 | 学生・教職員が共に企画・実施 | 学生の主体的な参画 専門教員との協働 |
持続可能性 | 財政的・人的・環境的資源の確保 | 外部助成金の活用 学部との連携 学内施設の調整 |
透明性 | 運営や収支報告などの情報公開 | 事業計画や収支報告書をHPなどに公開 |
改善性 | 組織としての成長と質の向上 | スタッフ研修 情報収集 |
技術視点:価値あるスポーツ体験のために
キャンパスレクリエーションの教育的・社会的な価値を実現するためには、技術的な指導に加え、参加者の安全・安心な環境整備が求められます。AEDの設置、管理スタッフのCPR(心肺蘇生法)研修や緊急時行動計画の掲示を必須とするなど安全管理を徹底させます。指導体制の構築として、教員の協力を得る場合には、業務負担軽減策(授業コマ数の調整や人事評価への加点など)を経営者・学部と調整をする必要があります。指導者の研修には、大学スポーツ協会が無料で提供する指導者のコーチング哲学やハラスメント防止に関するマニュアルや動画教材を活用することもお勧めします(大学スポーツ協会、2025)。
3.まとめ
ある調査では、大学生が運動をできていない理由では、「時間がない」という回答が最も多いと述べられています(株式会社ガロア、2022)。誰もが気軽にキャンパスでスポーツができれば、学生のキャンパスライフはより豊かで充実したものになり、学生のウェルビーイング向上や学修への好影響が期待できます(Souza Leite Vieira A et al. 2023, Flueckiger L et al. 2014)。
もちろん、誰もが気軽にスポーツを楽しむためには、授業の空き時間や空き施設の有効活用、施設整備、そして体育教員や学生スタッフの協力による柔軟な運営体制の構築が欠かせません。こうした取り組みは一朝一夕には実現できず、段階的かつ計画的な導入が求められます。しかし、教育・マネジメント・技術の3つの視点を踏まえて取り組むことで、学生も教職員も、スポーツを通じて気軽に学び、つながり、成長できるキャンパスを築くことが可能です。今こそ、そんな新しいキャンパスづくりに一歩踏み出してみませんか?
出典
Eastern Washington University (2025, Aug 8th). Recreation Program
Souza Leite Vieira A et al., Physical Exercise Pattern for Undergraduate Students and Its Importance in the Quality of Life, Well-Being, and Future Patient Orientation. J Lifestyle Med. 2023 ;13(2):110-118.
Flueckiger L et al., How health behaviors relate to academic performance via affect: an intensive longitudinal study. PLoS One. 2014,;9(10).
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