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大学にスポーツをまとめる部署を作るタイミングは「今」なのか?

  • 執筆者の写真: Masaru Ito
    Masaru Ito
  • 8月23日
  • 読了時間: 4分

 大学にスポーツ統括部局を設立する際は、戦略的に推進する準備が整っているか見極めよう。設置には明確なビジョン、危機感、信頼される人材、適切なタイミングが必要。段階的な準備や試行的導入を通じて、大学スポーツの価値最大化を目指そう。


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 「大学でキャンパスレクリエーションを始めよう」でも取り上げましたが、2025年8月8日、スポーツ庁は大学スポーツの発展に向けた方策を検討する「大学スポーツ構想会議」の提言を公表しました。その中で、「大学スポーツ振興のためには、大学自身が主体的に関与する体制づくりが不可欠であり、スポーツ分野を一体的に行う統括部局の設置が重要である」と述べています(※1)。

 そこで、今回はこの統括部局の設置タイミングについて考えてみたいと思います。「設置のタイミング?今でしょ!」と思われる方もいるかもしれませんが、大学スポーツの統括組織の設置には、慎重な準備と適切なタイミングがあると思います。


1.スポーツ振興のビジョンが示されている

「統括」とは、「いくつか別々になっているものを、調整して一つにまとめること」と定義されています。つまり、大学におけるスポーツ振興のビジョンが明確に存在し、そのビジョンに向かって複数の部門を調整し、方向性を一つにまとめることが統括部局設立の目的です。

 このビジョンが具体的であればあるほど、関係者との共通理解や協力を得やすくなります。たとえば、大学の事業計画にスポーツ振興が戦略的に組み込まれていれば、組織内での協力体制が生まれやすくなります。


2.危機感がある

 不祥事の繰り返しや現体制での解決困難などにより、組織内に危機感が醸成されていることは、統括部局設立の重要なタイミングの一つです。危機感は組織変革の原動力となり、問題意識が共有されていれば、設立への理解と協力も得やすくなります。


3.統括部局をまとめる人材がいる

 スポーツ庁は、「大学において大学スポーツ分野を戦略的かつ一体的に管理・統括する専門人材」をスポーツアドミニストレーター(SA)と定義し、大学への配置を促進する「大学スポーツ振興の推進事業」を展開しました(※2)。しかし、大学スポーツに関する幅広い知識を備えた“スーパーマン”のような人材の確保は困難であり、「全国的にみると、大学スポーツに対して全学的に適切に関与する体制が整ったとは言えない状況にある(※3)」と述べています。育成システムも議論されましたが、実現には至っていません。

 現在、多くの大学では、大学スポーツに関する業務を一般の事務職員が担当しています。必ずしも専門家である必要はなく、重要なのは、学内で信頼を得ており、関係者との共通理解を築ける人物であることです。そのようなリーダーがビジョンを体現し、他の事務職員がそのビジョンを実務に落とし込む体制が整えば、大学スポーツの取り組みは十分に始められます。


4.そのタイミングまで待つ

 上記のような条件がまだ整っていない場合は、統括部局の本格的な設置には慎重になるべきかもしれません。たとえば、ビジョンが明確でなければ、統括部局職員が他部署に依頼に行った際、「忙しいのに、なぜ業務を増やすのか」と不満を抱かれるでしょう。逆に、「統括部局」という言葉を過大解釈され、「スポーツに関すること全部やってくれるんですよね」と既存業務が一方的に委ねられる可能性もあります。

 一方で、段階的な準備や試行的な設置を通じて、条件を整えていくプロセスも十分に考えられます。たとえば、小規模なプロジェクトチームを立ち上げて、統括業務の一部を担わせることで、実践を通じて課題や必要な体制を明らかにすることができます。

 繰り返しになりますが、統括部局設立の目的は「大学経営における大学スポーツの価値の最大化」をどう達成するか、そのための交通整理が部局の役割です。これが機能しなければ、結果として業務に追われる部署が一つ増えるだけで、大学におけるスポーツ振興は進みません。


まとめ

 大学スポーツ統括部局の設置には、明確なビジョン、組織内の危機感、信頼される人材の存在、そして適切なタイミングの見極めが重要です。これらのいくつかが揃って初めて、統括部局は大学スポーツの価値を最大化するための有効な手段として機能します。焦らず、しかし着実に準備を進めることが、長期的なスポーツ振興成功への鍵となるでしょう。


出典

 
 
 

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