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大学スポーツ振興に必要なのは「専門家」ではなく「集合知」

  • 執筆者の写真: Masaru Ito
    Masaru Ito
  • 10月18日
  • 読了時間: 3分

大学スポーツ振興の実現には、必ずしも外部の専門家だけに頼る必要はありません。大学内にすでに在籍している人々の知恵を集めることで、十分に成果を出せる体制を構築することが可能です。大学スポーツの課題は多様であり、すべてを知っている人も、すべてを解決できる専門家も存在しません。だからこそ、既にいる大学内の関係者が協力し合うことで、効率的かつその大学に合った体制を築くことができます。

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前回の振り返りと今回のテーマ前回は「大学にスポーツをまとめる部署を作るタイミングは『今』なのか?」という問いに対し、設立のタイミングの重要性を述べました。今回は、統括部署を設置した後、どのようなステップを踏めば成果を出せる体制を築けるのかを考えます。


ステップ1:現状整理統括部署の立ち上げには、大学におけるスポーツの「なりたい姿」があるはずです。その理想像と現状の差分から、解決すべき課題(例:ガバナンス、会計、安全・安心など)を明確にし、優先順位をつけて着手しましょう。次に、学内の組織図や規程を確認し、統括部署の位置づけを整理します。意思決定の流れと権限の所在を明確にし、必要に応じて組織改編や規程改定を行うことで、集約性のある体制を整えることができます。


ステップ2:仲間づくり(集合知の活用)スポーツの課題は多岐にわたるため、一人で解決することは困難です。大学内にいる専門性の異なる仲間と協働することが重要です。ジェームズ・スロウィッキー(2009)は、集団の知恵を「集合知」と定義し、個々の知識が限られていても、集団として優れた知力を発揮できる。それには、以下の4つの視点が必要と述べています。

  • 多様性:指導者、運動部学生、事務方、教員など、異なる立場や発想を持つ人々の意見を集める。例:学内研修で、インプット(情報提供)・ディスカッション(意見交換)・アウトプット(提案やまとめ)を行う場を設けることで、実践的な集合知の形成が可能になります。事務方の課長会議にスポーツ担当者が参加することも有効でしょう。

  • 独立性:それぞれが専門性を持ち、一人の意見に従属せず議論する。例:職員が教員の顔色をうかがうのではなく、大学事務の専門家として独立した視点を持ち発言できる環境を作る(※)。

  • 分散性:現場で判断できる自主性と権限を持つことで、迅速な対応が可能になる。例:運動部でのトラブル時に、指導者や事務担当が即時対応できる体制を構築する。

  • 集約性:分散された情報や決定を吸い上げ、組織全体として意思決定できる仕組みを整える。例:大学スポーツに関わる事件・事故発生時の緊急対応やメディア対応マニュアルのフローの中に統括部署を組み込みましょう。


まとめ:大学ごとの「最適解」は集合知と試行錯誤から生まれる大学スポーツ統括部署を機能させるには、まず現状を整理し、課題を明確にすることが重要です。そして、専門性の異なる仲間と協働し、集合知を活かす体制を築くことが求められます。最初から完璧な体制を作ることはできません。現場の声を丁寧に拾いながら、小さな改善を積み重ねていくことで、大学に合った形を模索することができます。こうしたプロセスこそが、持続可能な組織づくりにつながります。


※山本眞一(2003)は、「大学内部の管理運営ヒエラルヒーは、教員部分と職員部分に二分され、前者が後者に対して優位に働く状況が続いてきた」と述べています。職員が教員の顔色をうかがい、空気を読み始めると、その集団は賢さを失います。職員が大学事務の専門家として活動できる環境作りが重要です。


参考文献

  • ジェームズ・スロウィッキー(2009)「みんなの意見」は案外正しい

  • 山本眞一(2003)「職員と大学改革」有本章・山本眞一編『大学改革の現在』東信堂、187–203頁。

 
 
 

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