ちょうどよい大学スポーツの在り方とは
- Masaru Ito
- 7月27日
- 読了時間: 5分
大学が「学ぶ場所」から、「社会と共に生き、共に創る場」へと進化する中で、「ちょうどよい大学スポーツの在り方」とは何か。一つは、学生・地域・社会にとって安心できるコミュニティの形成に寄与し、大学のファンを増やすことで、卒業後の寄付、同窓会活動、大学主催イベントへの参加など、大学との継続的な関係性の構築に貢献する形だと思う。
この実現に向けて、次の3つの視点から大学スポーツの在り方を提案したい。
大学の理念と文化に基づいた柔軟な運営
多様なスポーツ参加形態
スポーツを通じた共生社会のきっかけづくり

「ちょうどよい」とは何か
辞典によれば、「ちょうどよい」とは「ある物事が期待・目的にうまく合い、程度が過不足なくぴったりしているさま」と定義されている(1)。では、「大学スポーツが現在の大学の期待・目的に合い、程度が過不足なくぴったりしている」とは、どのような形か考えてみたい。
大学スポーツの時代的変化
大学スポーツは、社会の価値観や大学の経営方針に応じて、その役割を大きく変えてきた。
戦後の復興期:東京オリンピックを契機に国家的な強化対象に
1980〜90年代:メディアと結びついた大学ブランド戦略の一環
2000年代以降:少子化や大学間競争の激化により、広報や地域連携の手段としての役割
大学の進化とスポーツの役割
科学技術基本計画「Society 5.0」では、大学は研究・教育・社会実装のハブとして中核的な役割を担うことが期待されている(2)。大学は「学ぶ場所」から「共に生き、共に創る場」へと進化していく事が求められてくる。原田(2025)は、都市空間を人々がより活動的に使い、交流し、滞留できる場へと変化させ、そこで過ごす時間をより健康的でウェルビーイングなものにすることを「都市のアクティブ化」と定義している。大学スポーツは、この進化(アクティブ化)の中で、学生・地域・社会にとっての「安心できるコミュニティ」の形成に寄与し、大学のファンを増やすことに貢献する。これが「ちょうどよい大学スポーツの在り方」の一つの形ではないだろうか。
提案する3つの視点
1.大学の理念と文化に基づいた柔軟な運営
大学へのニーズが多様化していく中で、大学スポーツは、時代や社会の変化に応じて様々な形でその役割を果たしてきた。今後、大学が動的な空間として「共に生き、共に創る場」へ進化のであれば、大学として一貫性ある理念や文化を保ち、大学スポーツの位置づけを明確にする必要がある。大学スポーツの活動が大学において、何につながるのかを明確にし、ステークホルダーに示す必要がある。
例えば、東京大学では「スポーツコンパス」というビジョンを掲げ、教育・研究・学生活動を通じて、健康で安全なスポーツ環境の構築を目指している(4)。これは、大学全体でスポーツの価値を共有し、誰もが関われる仕組みを作ることに重点を置いている。
2. 多様なスポーツ参加形態
次に、「やりたい人が、やりたい形で参加できる」スポーツの環境の整備する。強化運動部、一般運動部、サークル活動、健康目的、子ども教室など、多様な関わり方を用意することで、誰もが心地よく関り、同じ目的を持った人とのつながりも生まれる。また、スポーツの「する・みる・ささえる」など、選手だけでなく、運営、サポーター、広報など、関わり方を自分で選べる環境を整えることで、学生の成長と心地よい居場所づくりにつながる。
順天堂大学「SPORTS FOR ALL」モデル(SPODIP)は、誰もが楽しめるスポーツ環境を整え、学生が地域で指導者として活動しながら、多様性への理解を深める教育を通じて、包摂的なスポーツ文化を育む取組をおこなっている(5)。
名城大学のMSP(Meijo Sports Project)は、学生が主体となってスポーツイベントの企画・運営に関わることで、競技者だけでなく応援・広報・運営など多様な立場からスポーツに関われる環境を整え、学生の主体性や社会性を育むとともに、スポーツを大学文化として根付かせることを目指す取り組みが行われている(6)。
3. スポーツを通じた共生社会のきっかけづくり
坂倉(2023)は、コロナ禍を経て大学における「居場所」の重要性が増していることを指摘し、物理的・心理的な安心感を提供する空間の必要性を論じている。特に、学生が「ありのままの自分」でいられる環境づくりが求められており、大学が多様性を受け入れる場であるべきだと述べている。中央大学では、2025年度の「ダイバーシティウィークス」で「スポーツとダイバーシティ」をテーマに掲げ、スポーツを通じて多様性の尊重と社会的包摂を考えるイベントを開催している(8)。
結論
本稿では、今後の「ちょうどよい大学スポーツ」の一つとして、大学における様々なスポーツ活動が、大学の理念の下、社会の変化に応じて柔軟に進化し、誰にとっても“心地よい”関わり方ができる形を提案した。この形は、競技志向の学生だけでなく、健康や交流を求める学生、地域住民、卒業生など、すべてのステークホルダーにとっての居場所を作り、中長期的に「大学のファンづくり」に貢献する活動になると考える。これにより、ステークホルダーと大学の継続的な関係性の構築に貢献することが出来る。
出典
1.Weblio辞典
2.原田宗彦(2025)次世代のスポーツマネジメント、体育施設、2025
3.Society 5.0とは、内閣府ホームページ https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/
4.東京大学スポーツコンパス
5.順天堂大学「SPORTS FOR ALL」モデル(SPODIP)
6.名城大学MSP(Meijo Sports Project)
7.坂倉杏介:大学の多様性のある居場所づくりと地域コミュニティ
8.中央大学、2025年度ダイバーシティウィークス
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