パンデミック以降、100を超えるDivision I運動部が廃部となりました。そしてその多くはオリンピックスポーツと呼ばれる運動部です。今回は、NCAAがアメリカオリンピック・パラリンピック委員会と一緒に、興行収入をあまり生まないNon-revenue sports(収入のないスポーツ)と呼ばれるオリンピックスポーツの廃部を防ぐためのおこなっている取り組みを紹介します。
が、最初にアメリカ大学スポーツ局の収入構造を見ていきたいと思います。
アメリカ大学スポーツの基本的なビジネスプランは⓵お金を稼げるスポーツからの収益、②学生の学費、③州からの資金などの大学費を合わせて運営を行うものです。
地域や伝統によって野球やアイスホッケーなどで興行収入を得られる一部の大学もありますが、一般的に収益を生めるスポーツはアメリカンフットボールとバスケットボール(特に男子)です。つまり、スポーツの収益が少ない大学は学生の学費と大学費への依存率が高くなる構造になります。
アメリカ大学スポーツ局収入の内訳
1. チケット収入
2. 寄付
3. 権利料(放映権、肖像権、NCAA分配金、スポンサー料、ライセンス料、広告料、商標及び使用料)
4. 学費
5. 大学費(州からの資金、授業料免除などを含む、大学からの直接的および間接的な支援の両方を含む)
6. その他
USATodayによると、2019年度では1200を超えるNCAA加盟大学の内、学生の学費と大学費からのお金なしで収支が賄えた大学はたった15校しかありません。つまり、ほぼすべてのアメリカ大学スポーツは学費や大学費なしでは運営ができないのが現状です。そして、コロナ下により興行による収入が激減し、学費や大学費により依存する状況になっています。同時にほぼすべての大学でコスト削減が進められ、興行を生みださないスポーツ、つまりオリンピックスポーツの廃部が相次いでいるという現状があります。
「NCAA大学出身者1000名以上が東京オリンピック・パラリンピックで活躍」で紹介しましたが、NCAAはアメリカだけではなく、その他の多くの国の競技力向上に寄与しています。そして、その基礎になっているのが各大学で保有する施設や学生選手のために支出するお金です。NCAAによるとNCAA加盟大学全体でオリンピックスポーツに年間総額5兆円が使われているとのことです。
USOPC COLLEGE SPORTS SUSTAINABILITY THINK TANKによるとパンデミック以降全米で100以上のDivision Iスポーツが廃部(2021年9月参照)、The Associated Pressによると、NCAA全体で171のチームの廃部があるとのことです(2020年7月時点)。その多くがオリンピックスポーツです。
これに危機感をもったUnited States Olympic and Paralympic Committee (USOPC) は2017年から大学レベルにおけるオリンピックスポーツの強化の取り組みをNCAAとはじめ、2000年にUSOPC COLLEGE SPORTS SUSTAINABILITY THINK TANKを立ち上げました。これは大学スポーツ、特にオリンピックスポーツの持続性、構造、上部・下部競技組織とのパートナーシップを優先事項として取り組むワーキンググループです。
例えば、持続性に関しては、オリンピック・パラリンピックスポーツは、通常の大学授業では使用しないスポーツ固有の施設が必要であったり、興行収入を生むスポーツ(Revenue-sports)とは異なる費用対効果の高い方法で収益を生み出すなど、より柔軟性のあるアイディアが必要と述べています。現在のポリシーの変更により、リクルーティング費用の削減や、全米に遠征するのではなく、地域で大会を開くなどの合理化により運用コストが削減が検討をする。また、ユーススポーツや代表チームとのコラボレーションの強化により、代表スポンサーやリソースへのアクセスが可能と述べています。
このような取り組みは、個々の大学レベルで運営課題に立ち向かうのではなく、オリンピック協会が主導で課題解決をおこなうことで、大学が一体となって取り組めるとても力強いバックアップとなります。
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