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ハラスメントを無くすために、スポーツ現場に潜む構造的リスクを理解する

  • 執筆者の写真: Masaru Ito
    Masaru Ito
  • 1月10日
  • 読了時間: 4分

スポーツ現場のハラスメントは環境構造に起因し、知識だけでは防止できない。指導者とアスリートの双方が上下関係や閉鎖性などのリスクを理解し、組織改善・対話型コミュニケーション・選手尊重を組み込んだ研修が必要である。



2026年も年明け早々、スポーツ指導者によるハラスメントのニュースが報道されました。

日本スポーツ協会(JSPO)の統計によると、2014年度以降、相談件数は年々増加し、2024年度は過去最多536件に達しました(1)。


出典:JSPO 暴力根絶に向けた取り組み
出典:JSPO 暴力根絶に向けた取り組み

JSPOや各競技団体ではハラスメント防止研修を実施していますが、JSPOの調査からは、講習受講回数や本人の自信が高まっても、ハラスメント抑止にはつながっていないことが示されています(2)。

では、何をすべきでしょうか。

まず、指導者とアスリートが理解すべきなのは、スポーツ活動の環境そのものがハラスメントを生みやすい構造を持っているという事実です。


スポーツ環境の構造とハラスメント

熊安ら(2021)は、スポーツ関係者がセクハラに許容的な背景には、スポーツ組織特有の権力構造や価値観、習慣が影響していると指摘しています。被害者は行動意欲を持っていても、対応方法の不明や諦念、被害者非難が「傍観」を生み、組織の自浄作用不足が課題であり、防止策には環境改善と周知が不可欠と述べています。

Runquist et al.(2025)は、スポーツにおける虐待的指導は、指導者と選手間の権力関係に起因する問題であると述べており、Martha Kwon(2020)は、スポーツ活動は時間的・選択的な制約を伴い、学生は自律性に限界を感じつつも、同時に、スポーツは生活に深い意味を与える存在であり、「スポーツがなければ不完全」と感じるため、制約をある程度受け入れていると述べています。

つまり以下の要素が重なることでハラスメントが発生しやすくなると考えられます。

  • 上下関係の強さ

  • 結果主義・勝利至上主義

  • 長時間拘束による閉鎖性

また、こうした要素が重なると、指導者の正当な指導と受け手にとっての圧力や威圧が混同されやすく、意図しないハラスメントが起きます。さらに、若年層ほどハラスメントを「許容しがち」という傾向があり、現場では「問題が見過ごされやすい雰囲気」が生まれ、指導者自身も、自分の言動の過剰さに気づきにくくなるのです(熊安, 2018)。研修を重ねても抑止効果が限定的なのは、知識付与だけではこれらの環境構造の問題を解決できないことが考えられます。


環境構造の改善にむけて

ハラスメント防止には、環境が持つ構造的リスクを理解し、改善策を組み込む研修が必要です。以下のポイントを挙げます。

  1. 環境改善のための組織的取り組み

ハラスメント相談窓口や対応フローの明確化など仕組み的改善も重要ですが、課題の多くは組織風土にあります。

指導者とアスリートが、ハラスメントの起きやすい構造(上下関係・閉鎖性・勝利至上主義)について話し合い、可視化し、改善策をチームで共有しましょう。例えば、「傍観」を生む要因(対応方法がわからない、諦念、事なかれ主義)を減らすため、一人ひとりができることを話し合う場を設けましょう。

  1. コミュニケーションの取り方を学ぶ

指導者の心理とハラスメント」で取り上げましたが、一方的な指示ではなく、選手の意見を聞く「対話型コミュニケーション」を導入します。定期的なフィードバックの場を設け、選手が安心して意見を言える雰囲気をつくりましょう。

  1. 選手のニーズへの配慮と尊重を示す指導法

Runquist et al.(2024)の研究では、「選手のニーズへの配慮」や「意見の尊重」を示す指導者は、虐待的指導の報告率が低いことが示されています。指導者研修では、選手のウェルビーイングや自律性を尊重する指導法を学びましょう。


まとめ

ハラスメント防止は、「知識を増やす」と同時に、指導者やアスリートが、スポーツ環境そのものがハラスメントを生みやすい構造を持っていることを理解し、コミュニケーション改善・主体性尊重・環境改革を組み込んだ研修を行うことが、現場の安全性を高める第一歩です。「ハラスメントをしない」ではなく、「ハラスメントが起きにくい環境を一緒に作る」という視点が重要と考えます。


出典

  1. 日本スポーツ協会暴力根絶に向けた取り組み

  2. ⽇本スポーツ協会 公認スポーツ指導者を対象としたオンライン調査報告書(2020)

  3. 熊安貴美江, & 高峰修. (2021). スポーツ環境におけるセクシュアル・ハラスメント認識と関連要因の検討: 指導者・競技者・愛好者への調査より. 女性学研究 Women's Studies Review, 28, 73-101.

  4. Runquist, E. B., Adenaiye, O. O., Sarzaeim, M., Milroy, J., Wyrick, D., & Tuakli-Wosornu, Y. A. (2025). Associations of abusive supervision among collegiate athletes from equity-deserving groups. British Journal of Sports Medicine.

  5. Kwon, M. (2020). Student-Athletes, Autonomy, and Self-Authorship Amidst the Organizational Culture of Collegiate Athletics. The George Washington University.

  6. 熊安貴美江(2018)スポーツ環境におけるセクシュアル・ハラスメントの実態と課題

 
 
 

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