「勝つための強化」から「地域のための機能」へ―大学運動部「強化」の転換
- Masaru Ito

- 5月10日
- 読了時間: 4分
大学は「競技目的」と「地域貢献目的」で機能を分化した支援設計を行い、現在の強化運動部への過度な負担集中という矛盾を解消するべきではないか。その実現には、リクルーティング段階から役割別に設計し、NCAAの大学のようにスポーツを学生定着と地域接続のハブとして組み込むことが有効である。

1.背景
現在、大学スポーツを取り巻く環境は大きく変化している。かつての学内「教育資源」に位置づけられていた大学スポーツは、今や「社会的インフラ」へと昇格しつつある。スポーツ庁の施策では、競技成績ではなく「地域にとっての公共的価値」を生み出す大学スポーツが支援対象となり、運動部は課外活動から大学経営や地域連携の中心へと位置づけ直されている(※1)。また、部活動改革により中高のスポーツ環境が地域へ移行する中で、大学は地域スポーツの中核としての役割を担うことが求められている(※2)。さらに、科学技術基本計画「Society5.0」や中教審「知の総和」答申が示すとおり、大学は研究・教育・社会実装をつなぐハブとなり、地域に開かれた存在へと進化している。この文脈において、大学スポーツは学生と地域住民の接点を創出し、コミュニティを形成する重要な機能を担うことが求められている。
しかし現状では、その役割の多くを担っているのは「強化指定運動部」の学生である。彼らは競技力を基準にリクルーティングされ、入学後は競技成績、学業、就職に加え、現在、地域貢献も求められている。強化運動部の存在意義そのものを否定するものではないが、大学側の都合に応じて多様な役割を一方的に課している点に問題がないだろうか。
2.運動部「強化」の目的は?
大学スポーツを地域・社会インフラとして活用するのであれば、「強化」の目的を競技成績に限定するのではなく、「大学活性化と地域振興に資する文化的資源」として再定義すべきである。例えば、強化指定運動部を「競技成績目的」と「地域貢献目的」の二つに分類し、それぞれに応じた役割と支援を設計することも可能ではないか。現行のように競技成績中心の評価体系の中で多様な役割を課すことは、学生の時間を奪い、競技と学業の両立を困難にし、大学生活の充実を損なう結果につながりかねない。
3.NCAA Division IIIの事例
この課題に対して参考となるのが、アメリカのNCAA Division III(以下、D3)のモデルである。D3では競技成績よりも学業や人格形成が重視され、「大学スポーツ=地域社会の一部」という理念のもとに運営されている(※3・4)。奨学金は原則として付与されず、コーチは指導者であると同時にメンターとして学生生活全体を支える役割を担う。また学生の約20%が運動部に所属し、誰もが参加できる開かれた仕組みが整っている。運動部は競技組織にとどまらず、生活・学修・人間関係をつなぐハブとして機能し、学生は入学初日から居場所を得ることで大学への定着が促進される。この構造の中で学生は地域活動にも自然に関わり、大学と地域の双方に所属する存在となる(※5)。
このように、D3における大学スポーツは「競技チーム」ではなく、「人をつなぎ、地域に留める社会インフラ」として設計されている。勝敗に依存しない価値が生まれ、学生・地域・大学の関係が持続的に構築される仕組みになっている。
4.まとめ
以上を踏まえると、日本の大学スポーツ、とりわけ「強化」運動部は再定義の段階にあると言える。現在のように「競技成績」を基準とした強化運動部に多様な役割を集中させるのではなく、機能ごとに役割を分解し、大学全体で支える仕組みへと転換することも将来的に一つの選択肢となるのではないか。
競技成績を追求すること自体を否定するわけではない(この点はしっかりと述べておきたい)。一方で、大学スポーツを「勝つための装置」にとどめるのではなく、「地域と人をつなぎ続ける仕組み」へと発展させていく視点も求められていることは事実である。今後は、このような再設計こそが、これからの大学経営において重要な意味を持つと考える。
4.参考文献


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